駆け足で、秋
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 

日本で雨の日が続くというと、
初夏がフライングしたような五月の暑さを冷ますように降る
“梅雨”をまず浮かべるところ。
殊に近年の梅雨は、ゲリラ豪雨と縁深く、
気団の位置が悪ければ延々と湿気を取り込み、
激しい雨が半日も続く台風並みのそれとなり、
結果、被害甚大となるほどでもあるけれど。
実のところ、統計でみれば、九月が一番雨の多い時期なのだそうで。
いきなりの逆落としという勢いで涼しくなっただけならともかく、
雨の日が多い九月なのが少々うんざりだというお顔の三人娘が、
学園までの坂の途中で顔をそろえ、
何てことない話題からその辺りの話になだれ込む。

 「やはり台風には敵いませんかね。」
 「五風十雨ってのはなかなかねぇ。」
 「…?」

 え? 五風十雨ってなんだって?

 ああ、それはね、久蔵殿、
 五日に一度風が吹き、十日に一度雨が降るようなお天気周りのことですよ。

晴ればかりでもいけないし、ましてや雨風が続くなんてもってのほか。
適当な循環で巡り来てくれるのが理想だという言い回しで、
そのくらい何事もなく穏やかに日が続き、天下が太平だという時にも使うそうな。

 「…vv」
 「何ですか?急に口許が嬉しそうだ。」

そのくらいの変化は拾えるようになった平八が、
自慢のみかん色の髪をさらりと揺らして小首を傾げ、
クールビューティで知られる金髪のお友達のご満悦の中身を
お隣のもう一人の金髪娘へ訊けば、

 「うん。アタシやヘイさんが
  訊けばなんでも答えてくれる物知りで嬉しいってvv」

今日は朝から涼しいからか、それとも朝練がなくて珍しくも寝坊でもしたか、
夏からこっち 後ろで束ねてポニーテイルが定番の
こちらはさらっさらなストレートの金髪を、
カチューシャで押さえるだけにし、後は下ろしておいでな七郎次。
もうヤダぁ、久蔵殿ったら可愛いんだからぁvvと、
寡黙なお友達の“想うところ”をあっさり拾ったそのついで、
なんてまあまあ可愛いのぉvvと
萌えてしまっておいでなのも、ままいつものことで。
同じ学園へと向かう、
やはりやはり同じ制服姿のご学友たちが少なからず歩む道すがらなので、
それでなくとも そうそうはしゃいでうるさくしてはいけないのだが、
妙なところで母性豊かな七郎次にしてみれば、
この、無口で寡欲なお友達が自分から何か発するのに接すると、
なんというか、不器用な子の拙さへの愛しさというかが
深いところからこみ上げてしょうがなくなるものであるらしく。

 よぉし、そんな可愛いこと言う久蔵殿には、
 今日作る予定のコンポートの種類を選ばせてあげようvv

 …vv

 え? あ、梨ですか、そりゃいいですねvv
 柿も? 食べごろのが出てればいいでげすねvv

今日もまだ短縮授業で、
しかも白百合さんの剣道部も紅バラさんの斉唱部も部活はお休み。
来月催される体育祭の総合練習などが多くなる頃合いなので、
毎日の基礎トレが大事な運動系の部でも
“自主トレ怠らぬように”というお達し付きでお休みとなるところが多く。
なので、今日はその帰りに平八の下宿先“八百萬屋”で、
秋の果物の砂糖煮、コンポートを作ろうという運びになってたお嬢様たち。
店主の五郎兵衛がお店のメニューとしてイチジクと桃のを作って
お味見をしたらばそれが美味しかったのという、
ひなげしさんの半分お惚気な自慢を聞いて、(ひゅーひゅーvv)
ケーキやクレープ、フレンチトーストなどへ添えたり出来るメニューだから、
私たちも作りましょうよという方向へと話が進んだ。
そこでのこの流れだったのだけれども、

 「…いつも思うんですが、
  何でそういう固有名詞まであっさり読み取れるんですかね。」

短縮だからということでそれぞれが提げているカバンも軽く、
キャッキャとはしゃぐ足元も軽やかな金髪娘二人から
気持ち、やや半歩ほど下がっていたひなげしさん。
二人の盛り上がりへ引いていたのでは勿論なくて、
それこそ純粋に疑問を覚えたらしく。
とはいえ、

 「何でって言われても…。」
 「……?」

そうと問われることの方が何だか違和感がとでも言いたいか、
品のいい白い細おもてを飾る、
玻璃色の双眸を困ったような笑みでたわめる白百合さんと、
その傍らで、こちらも結構な美貌を
なのに子犬のようにううう?と無造作に傾げる紅バラさんだと来ては、

 “まあ、訊くだけ野暮ってもんでしょうかね。”

二人にしてみれば、それこそ前世でもそんな相性、
阿吽というかツーカーを身につけておいでだったわけだし。
それを…こちらもやっぱり覚えている自分な以上、今更不審だなんて思うまいと、
日頃以上に目許を細め、うんうんとあらためての感慨へ頷いたひなげしさん。
そんな反応をまんま見せられても、
人を馬鹿にしているなと怒らず、ますますのこと“???”となってるところは、
それこそ人の良い証のようなものかもで。

 「今日は降らないといいですね。」
 「そうですねぇ。体育が筋トレになっちゃうのはもう飽きましたし。」
 「……。(頷、頷)」

願望はともかく、
一応は用心して持って出たらしい大きい方の傘を手に手に、
穏便な会話へと戻ったお嬢様がただったれども……




     ◇◇



まだ一応 夏仕様の濃紺のスカートの下には、
ロンパン(体育用ミディアム丈のスパッツ)を履いているとはいえ、

 「…っ!」

素晴らしい加速で真っ向から突っ込んでった相手は、
多少は喧嘩慣れしていたかそこそこのガタイ。
その肩へ両手をついての鮮やかな逆立ちもどきを披露した紅バラさんは、
少し高めの手摺扱い、足場にとしただけなのがありありわかる身ごなしで、
ほぼ自身の膂力と脚のバネとでその身を宙へと逆立ち状態へ持ってゆき。
そのまま、飛び出しナイフでもそうはいかんという素早い瞬発で、
しなやかな御々脚を真横の左右へ一気に繰り出して、

 「はがっ!」
 「ぎゃあっ!」

取り囲もうとでも思うたか、駆け寄せた別手の男衆二人を
それぞれに凄まじい威力の蹴りで迎え撃ち、薙ぎ倒している恐ろしさ。
相手がビックリして思わず身を屈めるのも計算に入れてのことか、
人の肩へと腕立てで身をせり上げたのにも関わらず
ちょうどいい高さになっての見事な攻撃が炸裂しており。
しかもそのまま、今度は腕にばねを溜め、

 「え?え? うわぁあっ!」

器用にも足場にしていた青年を突き飛ばす格好で 自分は宙へと飛び上がり、
後背へ突き倒しているのだから半端なく。
目にも止まらぬなめらかさ、
自身のチョー眼前で繰り広げられた一連の活劇を、
一瞬遅れで追うので精一杯だった足場男が、
他でもない自分の身に何が起きたか、果たして分かったかどうか。
片や、

 「せいっ!」

やはりセーラー服姿の金髪のお嬢様。
粗大ゴミ捨て場にあった、壊れたすだれを巻いたそれ。
窓辺に提げるタイプだったか、端っこの縁は丈夫そうな部分が居残っており、
巻かれてある分には結構頑丈なのをいいことに、
日頃剣道で鍛えておいでで握力もしっかとあるものだからと、
遜色ないままに操っておいでの白百合さん。

 「こんのぉ…っ!」

そちらもどこで拾ったか、
箒の柄のような棒を振りかざしてきた輩が突っ込んできたものを、
真横からの攻勢なの、きりりと引き絞った蒼玻璃の視線で鋭く見据えると、

 ひゅっ・か、と

空を引き裂いた鋭い音は、
猛禽の翼が疾風起こしてまかり越したかのよにも聞こえたが。
まだ距離はあったはずなのに、その少女が差し向けた殺気をまといし切っ先で。

 「げぇぇっ!」

巻いてあったすだれは、握りようで芯の部分だけが飛び出しもする。
突然 本来の得物の丈の二倍ほどになったその先が、
ひゅんっと、一瞬で鼻先まで飛んできたものだから。
まずは何が起きたか判らずに げぇっと驚き、
たたらを踏むよに慌てて停止させつつ確かめたブツの正体を把握すると、
今度は顔へ刺さらぬようにという意味からの
げえという間の抜けた声が出たらしい情けなさ。
突っ込んだ勢いの1.5倍ほどの加速で後じさりをし、
上半身と足元の同調が利かなんだか、
そのまま尻餅ついて転んでいるみっともなさで。

 「どうしましたか、金持ってこいと威勢がよかったのに。」

正規の帰り道を通れば、八百萬屋まではあっという間で。
まずはとそちらへお邪魔してから、
自分チのお庭で美味しいいちじくを作ってらっしゃるお宅があるのとで、
五郎兵衛が用意していたお返しの桃のロールケーキを手に、
そちらへ向かわんと、中通りを歩んでいたお嬢さんたちだったのだけれど。
ここいらの住宅のカラーにはそぐわぬ風体の
いかにもなやんちゃ筋の数人が、大人しそうな男子高生を吊し上げていたのと遭遇。
駅前からでも伸してきたものか、
それにしたってこのエリアでこういう騒ぎを起こすなんてまあまあなんて恐れ知らずか。
誰も縄張りとしてはない、
静かなばかりの風地地区くらいにしか思ってなかった新参辺りかも知れぬが、
どっちにしたって、ねぇ?(笑)
声高に喧伝こそしてはいないが、ここいらで騒動起こせば黙っちゃいない、
見かけの麗しさも恐ろしき罠なのか(こらこら)、
それは恐ろしい私設警備隊が、今ここに飛び出してきたという運びなの、
やぁっと気がついたらしいがもう遅く。
だらだらと弛緩させた態度も余裕のつもりだったか、
へらへら笑ってただらしなさも今は引き。
自分の最速でしか想像が及ばなかった、桁が違いすぎる
“疾風怒濤”という勢い。
生身の人間がこうまでの加速で突っ込んでこられるのだという事実、
自分の目で確かめられる日がこようとは夢にも思わなんだだろう輩たち。
たった三人の、しかも見るからにキラキラしい美貌のお嬢さんたちの、
一切無駄のない畳みかけによ蹴り飛ばされの、足を払われのして、
その場へ次々に薙ぎ払われて、あっさりへたり込んでいる有様で。
しかも、

 「…新学期そうそう、何してるかな。」
 「あら、佐伯さん、お久し振り。」
 「通報、早い〜。」

涼しいおかげさま、背広姿が堪えなくはなりましたが、
頭痛の種は減ってくれてなかったかとでも思ったか、
こめかみ辺りに人差し指を添え、
やれやれというお顔になった若手の刑事さんが、
所轄の警察官たちと共に急行しているところもお約束。

 「今、通報しようと思ってましたのに。」
 「嘘をつけ。」

スマホをかざして見せたひなげしさんだが、
征樹殿としてはそれも苦々しいことならしく。

 「此処いらにもある防犯カメラの位置を制御して、
  相手が“一方的に殴られた”なんて居直っても
  証拠に困らぬようにって図ってたのはお見通しだからね。」

 「ありゃま。」

何でまた、そんな恐ろしい機転へ気が回る性分まで身についたかなと、
そこへも頭痛がするらしい巡査長殿。
上司のお髭の壮年様に何かおごってのもらわねばと、
そんなこんなで気持ちを落ち着け、
仰いだお空の秋色に、やっとこ冷静さを取り戻し、

 「後でお越しくださいな。」
 「そうそう。」

大きい声じゃあいえませんが、
ゴロさんの美味しいモンブランをご馳走しますからと、
にっこり微笑うお嬢さんたちへ、
行事の多い二学期の始まりを実感した佐伯さんだったそうでございます。




   〜Fine〜  15.09.17.


 *昨夜、銀魂の劇場版を観て気持ちがたぎっちゃったわりに、
  活劇が思うほど多くはなかったのが自分でも意外。
  そこへたどり着くまでに落ち着いちゃったかな?(苦笑)
  他の保護者の皆さまもですが、佐伯さんにも大変な秋の始まりでございますvv

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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